性同一性障害、トランスセクシュアル、
トランスジェンダーに関する用語集

1998年7月12日改訂
文責:野宮アキ,東優子
協力:優形愛

 性同一性障害やトランスセクシュアル、トランスジェンダーについての用語は非常に多く、この問題の多様な側面をそのまま表しているとも言えます。これらの用語は、当事者や研究者、医療関係者の間でも使う人によって意味が異なるケースが多く、また関連領域の研究が進むにつれて変化するものであることをご承知頂いた上でご覧ください。


◆基本的な用語

◆関連する用語 ◆俗語など

◆基本的な用語

性同一性障害 / Gender Identity Disorder (GID)
身体(からだ)の性別(sex)とこころの性(gender)との間に食い違いが生じ、それゆえに何らかの "障害" を感じている状態。日本精神神経学会の『性同一性障害に関する答申と提言』では「生物学的には完全に正常であり、しかも自分の肉体がどちらの性に所属しているかをはっきり認知していながら、その反面で、人格的には自分が別の性に属していると確信している状態」と表現している。精神医学における疾患単位名。 
性自認 / gender identity
「自分は男性(女性)である」という自己認識のこと。性自認(ジェンダー・アイデンティティ)は、GIDを持たない人の場合、戸籍上の性、養育上の性、身体の性、社会的性役割と一致している。逆に一致していない場合に「性別違和感」を感じることになる。 
性役割 / gender role
「女」あるいは「男」という性別に対して、社会的・文化的に期待される役割。社会の側に「女であれば○○」「男であれば××」というステレオタイプな期待があるため、場合によっては性自認を表現する手段ともなる。 
性的指向性 / sexual orientation
性欲や恋愛の方向を表す概念。性的指向性が自分にとっての異性に向けられている場合は異性愛者(ヘテロセクシュアル)、自分にとっての同性に向けられている場合は同性愛者(ホモセクシュアル)、男女両方に向けられている場合は両性愛者(バイセクシュアル)と表現される。性的指向性と性自認は次元の異なる概念であり、性同一性障害者の性的指向性は人によって様々である。 
セックス / sex
身体の性別または生物学的な性別。生物学的性の要素には、性染色体、性腺、内性器、外性器などが含まれるが、これら一つ一つが明確に男性型・女性型に二分されるものではなく、性別判定の難しいインターセックスの例などもある。 
ジェンダー / gender
身体の性別だけでは捉えきれない人間の性を表現するための概念として生まれたが、現在では、生物学的性に対比させて、社会的・文化的性の意味で用いられることが多い。また人によっては、「性自認」または「性役割」を意味して使う場合もある。 
トランスセクシュアル / transsexual (TS)
性同一性障害者」の中でも、身体の性とこころの性の不一致を特に強く感じている人たちのことで、この二つを一致させるために形成外科的手術を強く望む人。手術前の場合をpre-op TS、手術後の場合をpost-op TSと区別して表現することもある。  
トランスジェンダー / transgender (TG)
狭義には、「性別違和」を感じている人の中で、反対の性での生活もしくは、既存の性役割にとらわらない形での生活を望みながらも、形成外科手術までは望まない人。広義には、それに加え、トランスセクシュアルトランスベスタイトなどを含む総称として用いられる。 
トランスベスタイト、クロスドレッサー / transvestite(TV), Cross Dresser (CD)
異性装者、すなわち一般で言われる「女装者」「男装者」のこと。精神医学では、異性装者には身体とこころの性の不一致がない、つまり性別違和感がないとして「性同一性障害者」と区別する。が、異性装することによって性別違和感の解消を図っている性同一性障害者も異性装者コミュニティに混在していることは否めない。 
MTF male to female
「男性から女性へ」という意味。MtF, M2Fとも表記される。上記の略語の頭に付けてMTFTS, MTFTG, MTFTV のように用いられる。 
FTM female to male
「女性から男性へ」という意味。FtM, F2Mとも表記される。FTMTS, FTMTG, FTMTVといったように用いられる。現代の日本では女性の服装が多様化していることもあり、FTMTVという用いられ方をされることは少ない。 

◆関連する用語

性別再指定手術 / Sex Reassignment Surgery (SRS)
一般には「性転換手術」として知られているが、性同一性障害者にとっては性別を転換(変更)する手術ではなく、誤った身体を修正し本来の性別を獲得するために必要な手術と考えられるため、「性別再指定手術(SRS)」という表現が用いられる。最近では、Gender Reassignment Surgery GRS)とも表現される。 
ホルモン療法 / hormone therapy
身体に対する違和感や不快感を軽減する手段として、男性化を望む場合に男性ホルモンを、女性化を望む場合には女性ホルモンを投与する療法。 
リアルライフテスト / real life test (RLT)
既存の社会制度の中で、「望みの性」で実際に生活してみるという体験を通じて、そこで生じる様々な "障害" を自分なりに克服し、社会的適応度を確認するための作業。「性別再指定手術」などの不可逆性の強い医療措置を行う前に、特に医療者側から求められるものであるが、その具体的内容は様々である。 
カミングアウト / coming out
自分に関するある事柄について他者に打ち明けることで、"Coming out of the closet(押し入れの中から外に出る)"という比喩表現に由来する。同性愛者が自己の性的指向性を肯定的に捉え、それを公にする中で人間性の回復を求めた運動から生まれた言葉であるが、現在では様々な場面で使われるようになっている。性同一性障害では、すでに希望する性で社会に溶け込んでいる人が過去の経歴を周囲に告白する場合と、出生時の性のまま生活している人が自分の希望を周囲に告白する場合などがある。 
パス,パッシング / pass, passing
「望みの性」で社会的に通用すること。FTMならば他人から男性と判断され、女性またはFTMと思われないこと。MTFならば他人から女性と判断され、男性またはMTFと思われないこと。 
インターセックス / intersex
先天的に、生物学上の男性的特徴と女性的特徴を合わせもつ状態、あるいは人々。「間性」「両性具有」「半陰陽」といった言葉で一般的に知られている。近代医学では、インターセックス児が生まれた場合、どちらかの性を判定し、養育上の性に合わせて内外性器を切除・形成することが奨励されてきた。しかし最近になって、養育上の性と一致しない性自認が発達したケースが報告されるようになり、治療方針の見直しが議論されている。 
ホモセクシュアル / homosexual
同性愛者。同性愛者の多くは、身体の性と性自認が一致した状態で、かつ男性が男性に、女性が女性に性的指向が向いている状態にある。一方、生まれもった身体の性と性自認が異なる性同一性障害者の場合、生れもった身体の性が「女(男)」で自己を「男(女)」であると認識する人が男性(女性)を恋愛や性欲の対象とする場合に「同性愛」と表現される。 

◆俗語など

 以下に記されている言葉は俗語のため、その定義は曖昧である。したがって、ここでの説明以外の意味で使われる場合も少なくない。

オカマ,オナベ
「オカマ」は女装した男性や男らしくない男性に対する俗称だが、男性同性愛に対して用いられることも多い。差別的な意味あいを強く含むため、当事者が自分に向けられて不快に思うことが多い。「オナベ」は同様に男装した女性や女らしくない女性に対して用いられる言葉である。 
ニューハーフ
和製英語。女装した男性であること、あるいは男性から「性転換」したことを公言して、風俗関連産業、芸能産業などに従事している人を指す。性同一性障害の当事者も多く含まれると予想されるが、ホモセクシュアルの男性が職業的に女性性を演じている場合もある。 
シーメール / shemale
英語で「ニューハーフ」に近いニュアンスを持つが、風俗関連産業、芸能産業などにおいて、女性化した乳房と男性外性器の両方を持つ状態を明示的に指すことが多い。 
クィア / queer
英語では元々、「変態」の意味を持つ蔑称だが、近年では、様々な性のありかたを掲げる少数者の権利獲得運動の中で、否定的なレッテルを逆手にとった前向きな言葉として自称に使われることも多い。 
ドラァグ・クィーン,ドラァグ・キング / drag queen , drag king
英語で「クィーン」は女装者、「キング」は男装者であり、「ドラァグ」は元々、(ドレスの裾を)ひきずるという意味を持ち、長大華麗な衣装をまとうことを言う。ゲイまたはレズビアンが「女性役割」「男性役割」を誇張する過剰な扮装によって虚構の「女性」や「男性」を演じ、性役割を茶化して楽しんだり、同性愛に対し理解を示さない保守的な人々を風刺する表現行為。 

◆参考文献

  • 三橋順子「トランスジェンダー用語の基礎知識」(「ひまわり」30号,雄美社,199712月)
  • いずみ「ひとこと解説集」(トークショー「いずみちゃんナイト」配布資料,199710月)
  • 東優子「基本的な用語説明」(シンポジウム「性同一性障害の過去・現在・未来」配布資料,19977月)
  • 日本精神神経学会「性同一性障害に関する答申と提言」(19975月)

[ホーム][データと資料]