「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第三条第二項に
   規定する医師の診断書の記載事項を定める省令」について


2004.3.12 緊急告知

昨年の7月に成立した「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」では、当事者が性別の法的な取扱いの変更を求めるにあたって、専門医による診断 書が必要となります。
今月、3月1日に、この診断書の記載事項を定める厚生労働省の省令案の内容が、パブリックコメントを求める形で発表されました。

TNJでは、3月7日(日)に「性同一性障害特例法に記載の診断書式を定める省令案について皆で考えよう!」を開催し、当事者や関係者間の意見交換を行いました。
TNJでは、運営メンバーとしてパブリックコメントを提出しようとしています。 パブリックコメント案
TNJのパブリックコメント案に賛同いただける方のお名前(通称可)を集めて、コメント提出時に付記したいと考えております の で、ご賛同いただける方は、 ご連絡をお願いいたします。
また、先の催しの中で、厚生省のパブリックコメント提出では、個人情報が開示される危険があり、提出をためらっている方もいらっしゃるのではな いかという声がありました。
TNJのパブリックコメントに添付という形で、個人情報を明かさない意見も提出したいと考えています。ご希望の方は、3/14午後5時までに到着するよう に電子メールもしくはFAXでTNJ宛にお寄せください。



2004.3.15 厚生労働省に意見(パブリックコメント)を提出しました


TNJ(Trans-Net Japan ; TSとTGを支える人々の会)では、3月15日に、診断書の記載事項を定める省令案についての意見(パブリックコメント)を厚生労働省の担当官に提出しました。提出したパブリックコメント
コメントの内容についての回答はこの場では得られていませんが、当事者へのヒアリング(ミーティング形式のもの)を行うことについて、検討を進めているとのことでした
(省令案等についての最終的な決定は、ヒアリングの後になるのではないかと思われます)。

なお、提出に際しては、以下の4名が立ち会いました。
 虎井まさ衛(TNJ運営メンバー、FTM日本主宰)
 野宮亜紀(TNJ運営メンバー)
 西本洋子(TNJ運営メンバー)
 上川あや(賛同者、世田谷区議会議員)

当日提出した文面は、先日の掲示文案に対し、頂いたご意見等をもとに若干の修正を加えたものとなっています。
ご了解を頂ければ幸いです。
今後の進展については、適宜ホームページまたは催し等の場でお伝えしたいと思います。
注)厚生労働省への意見(パブリックコメント)提出は、2004年3月19日まで可能となっています。
電子メール、ファクス等でどなたでも提出できます。 厚生労働省へのリンク



2004.4.9 性同一性障害特例法に基づく医師の診断書の記載事項に関する意見交換会

 2004年4月9日(金)の午後1時30分から午後4時頃まで、厚生労働省内の第13会議室において、「性同一性障害特例法に基づく医師の診断書の記載事項に関する意見交換会」が行われました。
この意見交換会には、厚労省から省令を担当する係長と係長補佐が出席し、当事者側からは、「FTM日本」、「家族と共に生きるGIDの会(Trans Family Net)」、「上川あや事務所」、「G-front関西」、「性同一性障害をかかえる人々が、普通にくらせる社会を目指す会(gid.jp)、「性は人権ネットワーク( Est Organization)」、そして TNJの7団体、合わせて30名弱が参加しました。
(以下、本文中では「性同一性障害者性別の変更の特例に関する法律」を「特例法」と略称します。また「担当者」とは厚労省側からの出席者のことを指します。)

 意見交換会では、冒頭、特例法で提出が定められている診断書の「記載事項及び記載要領」について、現状ではどのような案になっているか担当者から説明がありました。それに続いて当事者との間で、記載要領に沿って意見交換が行われました。
 実際の質疑では、自由に色々な項目が話し合われましたが、以下では報告の都合上、項目順にお伝えします。

2、生物学的な性別及びその判定の根拠」という項目は、特例法2条で「生物学的には性別が明らかである」ことが要件となっているために設けられています。この点について、インターセクシュアルとの関連で質問が出ました。特に、インターセクシュアルの当事者がGIDとして治療を行っているが、もはや過去の医療記録がないといった状況の場合に、この項目が不利に働かないかという点が危惧されました。担当者からは、ガイドライン第2版がインターセクシュアルも含めて対応するものとなっていることは承知しているが、特例法上に「生物学的には性別が明らかである」と書いてある以上、診断書には検査の結果をそのまま書いていただくことになるだろうとの応答がありました。

3、家庭環境、生活歴及び現病歴」という項目については、まず、家庭環境、生活歴等について「可能な範囲で、診断を行った医師が親族等から聞き取った供述を示すこと」という箇所について、そもそも「聞き取り」を求めることに対してパブリックコメントで削除を求める意見が多かったと担当者から紹介がありました。「可能な範囲で」と書くことにより、カムアウトを強制することにならないよう配慮したいとのことでした。
 また、当事者側からは、生活様式について「例えば」として結婚歴や性行動歴を記載することがあげられている点に疑問が出ました。特に、性行動歴の記載を求めることは、不必要に当事者のプライバシーを侵害し、著しい苦痛を与えることになると、改名審判時に当事者が被った苦痛の例等をあげての訴えがありました。この点については、担当者も、単に知られたくないということにとどまらず、性的指向を聞くことに意味がないということについて了解されたようでした。また、結婚歴についても、結婚していたことが裁判官の心理にマイナスの影響を及ぼすとの指摘が当事者側からありました。
 担当者からは、この項目に限らず一般的に、当事者のプライバシーの保護に関して、省令に書くことは難しいが何か工夫はできないかと思っている、との発言がありました。

5、GIDであるとの判定の根拠」という項目については、「除外診断」についての記載が問題となりました。(「また、あわせて同人が統合失調症などの精神障害、文化的又は社会的理由による性役割の忌避や、もっぱら職業的利得を得る目的などによって性別の取り扱いの変更を求めるものではないことについて、その根拠を挙げて示すこと」との部分です。)
 この項目は、精神障害などがあれば直ちに駄目という意味ではないと担当者から説明がありました。例えば、GIDであることと統合失調症を抱えていることとは両立するからです。また、「もっぱら」というのは英語で言えば'only'であり、職業的利得を得る目的だけで申し立てているのではないことがわかればよいとのことでした。
 この項目全体の趣旨は誰かを排除することではなく、GIDであることに基づいて性別変更を申し立てていることがわかるように、「根拠をあげて」裁判官の判断に資する形で書いてほしいとのことでした。
 また、「他の性別に適合させようとする意思」について、最終的には裁判所の判断だが、法の趣旨からすれば、本人の主観的なものが尊重されるのではないか、と担当者から意見がありました。診断書では、裁判官が当事者の意思を判断する材料となるような事情を記載してほしいとのことです。

6、医療機関における受診歴並びに治療の経過及び結果」という項目については、「治療の妥当性、正当性」について医師の評価を示すことになっている点が問題となりました。特に、妥当性だけではなく正当性が挙げられている点です。
 担当者からは、厚労省としては「正当性」の内容として、今国内でベースとなっているガイドライン第2版を念頭においており、そのガイドラインの中に出てくる「治療の正当性」という言葉もガイドライン自身に沿っているかどうかという意味であることを考えると、ドクターが診断書に「治療が正当である」との旨を書けば尊重されることになるだろう、との説明がありました。
 ただし、特例法上、ガイドラインに沿うこと自体が性別変更の要件となっている訳ではありません。

7、他の性別としての身体的及び社会的適合状況」という項目については「手術により形成又は切除された乳房、性器の状態が一般的に見て他の性別ととれる状態でかつ身体の一部として機能していること」という箇所が問題となりました。
 このうち、「他の性別ととれる状態」については、FtMの場合、マイクロペニスでOKであり、「身体の一部として機能」については、FtMで言えば立位排尿程度かもしれないが個人差があるだろう、と担当者から説明がありました。これに対して、当事者側から、陰茎形成は非常に難しい手術であること、例としてあげられた立位排尿も必ずしも一般的に達成される機能ではないことが述べられ、「機能している」との文言が厚労省の意図を超えて、要件をせばめることになりうる点が指摘されました。
 これに応答して、担当者からは、裁判官も専門医学的判断を自分ではできないので、身体的適合状況について裁判官にわかるように書いてほしいという趣旨だったが、当事者側からの懸念はもっともであり、「機能」との文言は削り、例えば「身体の一部になっていること」というような書き方に改めることが考えられる、との発言がありました。
 また、この項目中の「社会的性別役割」という用語に関して、この言葉が、典型的でない性別役割で生活している当事者に不利益を及ぼすことにならないよう、端的に「社会的適合状況」という言葉でもよいのではないか、との意見が当事者側からありました。

※2外国語で記載された診断書」については、担当者から次のような説明がありました。
 特例法2条でいう「知識及び経験を有する二人以上の医師」とは、医師法に基づく日本国内の医師のことであり、従って、外国医師による外国語診断書の場合は、日本語による医師の診断書に別添し、あわせて日本語診断書中に、外国語診断書を適宜引用するなどの形をとることになるそうです。
 
 この他、省令についての直接の質疑からは離れますが、地方から参加した複数の当事者から、地方の実情についての訴えがありました。
 特例法には「診断を行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師」とありますが、地方ではGIDの診療を行う医師がいないか、極端に少ないため、診断書をとるために多大な労力が必要となることが指摘され、GIDに限らず一般的な意味で良医と呼ばれる医師であれば、診断書を書けるのではないかとの意見がありました。これについて担当者からは、一般的な意味で良質な医師であれば診断は可能と理解しており、医療の地方格差などの現状も承知しているつもりだが、行政としての対応は難しく、自助グループの活動に負うところが多いのではないかとの応答がありました。
 
 まだまだ質疑は尽きない感じでしたが、時間の都合で意見交換は以上で終了しました。最後に、担当者から、「デスクに向かっているだけではわからなかった実情を知ることができ、有益でした。いくつかの項目、書き方については、精神科の先生方とも相談した上で検討させていただきたいと思います」との総括がありました。今後、治療をめぐる状況の変化、ガイドラインの改訂等にともない、省令(記載事項・記載要領)も実情にあわせて改訂されていくことになるようです。

 以上で報告を終わります。今回の意見交換会にTNJを通じて参加の応募をしていただいた方々には、人数の都合で全員の参加をいただくことはかないませんでしたが、この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。


[資料]

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第三条第二項に規定する医師の診断書の記載事項を定める省令(案)について

一 制定の趣旨
  本省令は、昨年の第156回通常国会で成立した「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(平成15年法律第111号)第3条第2項に基づき、性別の取扱いの変更の審判を請求するに際して家庭裁判所に提出する必要がある医師の診断書の記載事項について定めるものである。

二 省令(案)の内容
  診断書に記載すべき事項は次の事項とし、診断を行った医師は、診断書に記名押印又は署名しなければならない。
1 住所、氏名及び生年月日
2 生物学的な性別及びその判定の根拠
3 家庭環境、生活歴及び現病歴
4 生物学的な性別としての社会的な適合状況      
5 心理的には生物学的な性別とは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有すること並びにその判定の根拠
6 医療機関における受診歴並びに治療の経過及び結果
7 他の性別としての身体的及び社会的な適合状況
8 診断書の作成年月日
9 その他参考となる事項
三 施行期日
  法の公布の日から1年を経過した日(平成16年7月16日)



性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第三条第二項に規定する医師の診断書の記載要領(案)

1 住所、氏名及び生年月日
 → 生年月日は、西暦で記載してもよい。

2 生物学的な性別及びその判定の根拠
 → 診断を受けた者に対して行われた性ホルモン検査、性染色体検査、外性器や内性器の診察等の結果及びその検査結果等から同人の生物学的な性別が明らかであることを示すこと。上記の検査等については、半陰陽、間性、性染色体異常など、生物学的な性別に関する異常の有無が総合的にみて判定できればよく、上記に挙げた検査等をすべて行わなければならないものではない。
  なお、診断を行った医師と上記の検査等を行った医師が異なる場合においては、検査等を行った医師の氏名、所属機関を明記するとともに、可能であれば、検査等を行った医師が作成した検査等の結果についての診断書を別添すること。診断書を別添することができない場合は、検査等の結果についての出典を明記すること。

3 家庭環境、生活歴及び現病歴
 → 診断を受けた者の家庭環境、生活歴及び現病歴において、どのような性別意識を持ってきたか又は持っているかについて、両親・兄弟等の親族との養育関係や普段の生活様式(例えば、服装、言動、人間関係、職業歴、結婚歴、性行動歴等)に着目して示すこと。その際、可能な範囲で、診断を行った医師が親族等から聞き取った供述を示すこと。

4 生物学的な性別としての社会的な適合状況
 → 診断を受けた者が、学校、会社等社会的な関係における友人・知人や同僚との関係において、生物学的な性別としてどのように適合してきたか(いるか)を示すこと。

5 心理的には生物学的な性別とは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有すること並びにその判定の根拠
 → ここでは、診断を受けた者が性同一性障害者であると診断できることを記載すること。
  その際、前記3及び4で診断したような同人の心と身体との間の違和感や葛藤を通して、どのように自らの生物学的な性別に対する嫌悪感を意識し、他の性別であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的および社会的に他の性別に適合させようとする意思を有するようになったのか及びその持続期間について示すこと。
 また、あわせて同人が統合失調症などの精神障害、文化的又は社会的理由による性役割の忌避や、もっぱら職業的利得を得る目的などによって性別の取扱いの変更を求めるものではないことについて、その根拠を挙げて示すこと。

6 医療機関における受診歴並びに治療の経過及び結果
 → ここでは、性同一性障害に係る精禅的サポート、ホルモン療法・乳房切除術、性別適合手術等の各段階の治療の経過及び結果について記載すること。具体的には、治療の必要性及び目的の他、以下の事項について記載すること。
(1)精神的サポートについて、@治療に携わった医師の氏名及び所属機関、A治療の行われた期間及び治療の内容、B治療の結果及びその結果についての意見(治療の妥当性、正当性についての評価)、を具体的に示すこと。
(2)ホルモン療法・乳房切除術について、@その治療に携わった医師の氏名及び所属機関、A治療の行われた期間及び治療の内容、B治療の結果及びその結果についての意見(治療の妥当性、正当性についての評価)、を具体的に示すこと。
 また、ホルモン療法において投与された薬剤については、その名称、効用及び投与目的を明らかにし、効能についての資料を添付すること。
(3)性別適合手術について、@その治療に携わった医師の氏名及び所属機関、A治療の行われた期間および治療の内容、B治療の経過及びその結果についての意見(現在の生殖腺の機能並びに治療の妥当性および正当性についての評価)を具体的に示すこと。また、可能であれば手術記録を添付すること。
 性別適合手術によって生殖腺を除去したり、陰茎や膣の形成手術を行った場合には、Aにその旨を記載すること。また、診断を受けた者が何らかの原因により生殖腺が存在しなかったり、生殖腺は存在するものの抗ガン剤の投与やエックス線照射等によってその機能全般が失われている場合も、Aにその旨を記載すること。
 また、診断を行った医師と上記(1)から(3)までの療法等を行った医師が異なる場合においては、診断を行った医師は、他の医師が作成した上記療法等についての診断書を別添する等、可能な範囲で資料収集に努める必要がある。

7 他の性別としての身体的及び社会的な適合状況
 → 診断を受けた者が、性別適合手術等の治療を受けた後、手術により形成又は切除された乳房、性器の状態が一般的に見て他の性別ととれる状態でかつ身体の一部として機能していること及び同人が学校、会社等社会的な関係における友人、知人や同僚との関係において、他の性別としてどのように適合しているかを示すこと。その際、可能な範囲で、診断を行った医師が、診断を受けた者の手術後の身体や社会的性別役割に関して、診断を受けた者の親族等から聞き取った供述を示すこと。
 なお、診断を行った医師と上記の適合状況についての診察を行った医師が異なる場合においては、診察を行った医師の氏名、所属機関を明記するとともに、診察を行った医師が作成した上記の適合状況についての診断書を別添すること。

8 診断書の作成年月日
 → 作成年月日は、西暦で記載してもよい。
9 その他参考となる事項
 → 1から8の他に性別の取扱い変更の審判において参考となる事項を示すこと。

※1 診断書の作成については2名以上の医師が連名で行うことも可能である。
※2 外国語で記載された診断書(以下「外国語診断書」という。)を別添する場合は、同診断書の記載内容のうち本件診断書の作成に当たって重要と考えられる部分については、その内容を本件診断書中に適宜引用するなどして、外国診断書の妥当性や正当性が本件診断書の記載から明らかになるようにすること。



[ホーム][お知らせ]